
誤嚥性肺炎の予防においては, 侵襲と抵抗のバランスを考えることが大事です。侵襲には誤嚥物の量と質が関係しますが,量を改善するのが摂食嚥下リハビリテーションでした。一方, 質を改善するのが、歯科が得意としている口腔ケアです。口腔ケアで口腔を清潔に保つことにより, 唾液を誤嚥したとしても唾液中に細菌が少なければ肺炎にはならないという考え方です。
この考え方は、近年非常に広まっており、新聞
や一般誌にも取り上げられるようになっていま
す.
肺炎予防を専門とする歯科衛生士としては,もうすこし踏み込んで, 原因菌について考えてみたいと思います。高齢者の肺炎の原因菌でもっとも多いのは肺炎球菌であり(院内肺炎を除く)また肺炎球菌による肺炎は重篤になることが知られています.したがって、高齢者にとって肺炎球菌による肺炎は, もっとも警戒され予防されるべきものとされています.
実は, 肺炎球菌は常在菌として口腔内に存在
する場合があります.私たちの研究室でも, 肺
炎の既往のある高齢者の口腔内を調べたとこ
ろ, 肺炎球菌を有している割合が高いことが明
らかになりました. 「肺炎予防には口腔ケアをしましよう」で終わるのではなく, 「怖い肺炎の原因となる肺炎球菌を減らすためにも口腔ケアをしましよう」とまでいえるのが, 肺炎予防を専門とする歯科衛生士だと思います.
誤嚥性肺炎の予防というと, 誤嚥(侵襲)ばかりに目がいきがちですが誤嚥は肺炎発症の因子の1つにすぎません.肺炎を予防するには, 「侵襲」
だけでなく 「抵抗」も考慮する必要があります。
抵抗を増やすための1つの方法はワクチンの
利用です.インフルエンザや肺炎球菌のワクチ
ンが肺炎発症を低下させた, という報告が多く
出ています.特に, 唾液を慢性的に誤嚥しているような患者さんにとっては、肺炎球菌ワクチンは口腔ケアとともに肺炎予防に有効と考えられています.
「歯科衛生士だからワクチンは関係ない」と思
われるかもしれません.しかし, ワクチンを接種していない誤嚥性肺炎患者さんは多くいます.ワク
チンを打つのは医師ですが, 打つたほうがよい
患者さんに気づくのは誰でもよいのです.ワクチ
ン対象患者さんをピックアップするのは, 摂食•
横下臨床を担う歯科衛生士の大切な役割です.
抵抗を増やすためには栄養も重要です.低栄養で瘦せている高齢者は, 免疫機能も低下して
いるため肺炎になりやすく, 一度肺炎になると
回復が遅くなかなか治りません.栄養も「歯科衛生士だから関係ない」ではなく低栄養の患者さんをピックアップして, 医師.歯科医師や栄養士につなぐのも歯科衛生士の役割です.もちろん歯科衛生士自ら力ら(勉強したうえで!)歯科保健指導や摂食機能療法の一環として’できるかぎりの栄養指導を行うのもよいでしよう。
デンタルハイシーン参照 大石