受動喫煙で子どもの歯肉は黒くなる!? 
 
皆さんご存知のとおり、受動喫煙による子どもの害として瑞息、中耳炎、呼吸器疾患などがあげられますが、口腔内への影響としては歯周病、歯肉へのメラニン色素沈着が報告されています。ですから、初診で来院した子どもの口腔内をチェックするとき、付着歯肉のメラニン色素沈着が気になることがあります。そんな歯肉を見たときは、家族に喫煙者がいないか疑います。自分がその家族を担当していれば「やっぱり!」となることもしばしば。もちろん、両親がともに非喫煙者であっても、ほかの原因でメラニン色素沈着がみられる子どももいるので、家族に喫煙者がいると決めつけていけません。受動喫煙による子どもの口腔への影響について、こんなデータがあります。両親のいずれかが喫煙者であると非喫煙者に比べて5.4〜5.6倍、子どもの歯肉に着色がみられるという報告です。さらに、子どもの尿中コチニンの量と歯肉着色の関連を調べたものがあります。両親が喫煙者である子どもの場合、そうでない子どもより約30倍尿中コチニン量を認めました。両親の喫煙本数が増加すると子どもの尿中コチニン濃度も増え、またリビングでの喫煙でも増加しました。着色の濃い子どもほど、尿中コチニン濃度が高いという結果が出ています。やはり受動喫煙により子どもにメラニン色素沈着がみられるようになるのですね!メラニン色素沈着があることによって歯肉にどのような害があるのかはわかっていませんが、すくなくとも笑顔の印象には影響を与えるでしょう。 
 
こんな患者さんがいます。Tくんは1988年に6歳のときに初診で来院し、不定期ですがメインテナンスに来ていました。筆者が担当を引き継いだのは2008年26歳のときです。担当するにあたって過去の写真を見てみると、初診時から18歳前後までメラニン色素が濃いですが、2008年にはほぼありません。もちろんTくんは非喫煙者ですから「もしやお父さんが喫煙者であったのでは!?」と思い、残念ながら父親は当院には来院していないため、Tくんに聞いてみました。父親は1995年45歳まで1日約20本(25年間)の喫煙習慣があったそうです。父親は子どもの前では「吸っていない!」と言い張っているようですが、家族は「リビングで吸っていた」と断言しています。受動喫煙によるメラニン色素沈着が疑われ、また父親の禁煙によりメラニン色素沈着が薄くなっていると思われる症例です。Tくんの弟のYくんも来週していたので過去の写真をみると、歯肉にTくんと同様の現象がみられました。ちなみに二人の母親(非喫煙者)も来院していますが、歯肉の色に変化はありませんでした。やはり子どもは感受性が強いためか受動喫煙の害を受けやすいということがいえそうです。害を受けやすいですが、害がなくなれば元に戻るということもいえる症例です。 
 
 
デンタルハイジーン2019.9参照 
 
受付 山下