オーラルフレイルとは8020運動を基礎とした、口腔の啓発運動の新たなスローガンです。 

 

80歳で20本自分の歯を有している人、つまり8020運動の達成者は、すでに2人に1人と5割を超えています。さらに平均寿命が男女とも80歳を超えた現在、自分の歯の数だけでなく80歳でも不自由なく快適に食事を摂ることができ、口元の容姿に自信をもって、楽しく会話できることが口の健康の指標であると考えられるようになってきています。
こういった状況を踏まえ、高齢者の口腔の健康を支えるためには、自分の歯の数を維持することに加えて、口の働きの衰えを軽視しないことの重要性が注目され、オーラルフレイルという概念が提案されました。オーラルフレイルは直訳すると口の虚弱ですが、このような口に関する些細な衰えを放置したり、適切な処置を行わないままにしたりすることで、口の機能低下、食べる機能の障害、さらに心身の機能低下までつながる負の連鎖が生じてしまうことに対して警鐘を鳴らした概念でもあります。
具体的には、日常生活における口の些細なトラブル(滑舌低下、噛めない食品の増加、むせ、口元の容姿や口臭が気になるなど)を放置もしくは軽視してしまうと、これらの状態は、相互に悪影響し合ってさらに悪化していき、食欲や意欲が低下したり、コミュニケーションの機会が減ったり食事のバランスが悪くなって、栄養に偏りが生じたりします。さらに口の機能低下(咬合力の低下、舌運動機能の低下など)が生じ、低栄養、サルコペニアのリスクが高まり、最終的に食べる機能の障害を引き起こします。

このような日常生活における口の些細なトラブルは、誰しもが避けられない老化としてとらえることもできます。しかし、自然な衰えである口の老化とオーラルフレイルの違いは、オーラルフレイルが食欲や意欲の低下、会話や外出、外食の減少、さらには活動範囲の狭小化、社会的問題、精神心理的問題と複合して生じる不自然な衰えであることです。
しかし、これらの口の些細なトラブルは、早朝に適切な対応を行えば元の健康な状態に戻ることが可能です。反対に放置してしまうと生理的に老化に加え、さまざまな口の機能の低下、それに関連する社会的問題、精神心理的問題が相互に悪影響し合って、口の機能の低下が加速度を増して進んでしまいます。この点が、自然な衰えとオーラルフレイルとの大きな違いです。

以上のことを踏まえ、東京大学高齢者社会総合研究機構の飯島勝矢教授を中心とした神奈川県オーラルフレイルプロジェクトチームでは、オーラルフレイルを以下のように定義しています。「老化に伴う様々な口腔環境、歯数および口腔機能の変化、さらに心身の予備機能力低下も重なり、口腔の健康障害に対する脆弱性が増加し、最終的に食べる機能障害へ陥る一連のの現象および過程」
このようにオーラルフレイルは、これまで老化、廃用として解釈されていた口の機能低下を可視化したモデルといえます。口の機能低下および食べる機能の障害は、オーラルフレイルの概念を構成する一要因として位置づけられます。
多くの人は、加齢とともに低下する運動機能、栄養状態、生活能力を避けられない老化とあきらめ、自ら活動範囲を狭めたり、食べにくいものを避けたりしがちです。口まわりの些細な衰えから始まる現象を見過ごしていると、自覚しないまま悪影響に陥り、やがて食欲が低下し、低栄養状態に至りします。こういった口腔に関連した、些細な衰えを自分ごととし、行動変容につなげることが、オーラルフレイルの最初の一歩となります。

 

デンタルハイジーン参照 山下