知っておこう! 唾液のチカラと酸蝕症の関係

酸蝕症には内因性と外因性があり,その病因や好発部位,唾液との関係について見てきました。酸蝕症から歯を守る唾液の作用※を考慮すると,内因性と外因性によって対処方法が変わってきます.

※酸蝕症から歯を守る唾液の作用
・自浄·洗浄作用:粘膜や歯の表面を覆い咀嚼時に食物を付着しにくくしたり,洗い流したりする
・被覆作用: 唾液由来の糖タンパクを含むペリクルが歯の表面を覆い, 酸から歯を守る
・pH緩衝作用:唾液中の重炭酸塩により, プラーク中の pH が急激に低下するのを防ぐ
・再石灰化作用:唾液中のカルシウムやリン酸塩などのミネラル分が, 歯を修復する

今回はそれぞれの対処方法と,酸蝕とう蝕における唾液の役割の違いについて考えてみます。


内因性酸蝕症への対処
胃食道逆流症(GERD)など内因性酸蝕症患者では,「食事中よりも食間に胃液が逆流することが多くあります, 食間の安静時には唾液量が少なく,また唾液の pH 緩衝能も下がっています。唾液の役割を考慮すると酸蝕症予防のためには,食事中よりも食間にいかに唾液の作用を引き出すかにかかっています。そのため, まず唾液量確保のための水分の補給を十分に行い,食間にシュガーレスガムなどを噛むことで刺激時唾液を頻繁に出させる工夫が必要です。 また口呼吸になると乾燥して, 睡液が歯を十分に覆うことができなくなるため,口呼吸がある場合にはその対策も必要です。なお,シュガーレスガムを噛み唾液分泌を促すことで, 胃食道逆流症の症状が軽減するともいわれており、効果的な対策といえます。


外因性酸蝕症への対処
一方,酸性食品を偏って摂取することによる、外因性酸蝕症患者では,歯が酸に触れるタイミングは食事のときから食直後です。唾液を考慮した指導でも,食事中の唾液の働きを引き出す必要があります.つまり酸性食品を洗い流し,中和する唾液の作用が必要です。食事中にはよく噛むことを推奨し,刺激時唾液をたくさん出させます。刺激時唾液は pH 緩衝能が高く、酸性に傾いた口腔内を中和します

例1)赤ワインを長時間飲んでそのまま寝てしまう
→赤ワイン+おつまみなどを食べる様にする
◉ほかの食品により赤ワインの酸が中和される
◎よく噛むことで刺激時唾液をたくさん出させる

例2)赤ワインを飲んですぐに歯磨きをする→うがいなどで食物残渣を洗い流した後,ワインを飲んでから30分ほど待って歯磨きをする
◉唾液のpH緩衝能により口腔内が中性に戻った後に歯磨きをする
◉硬い歯ブラシや,研磨剤の粒子が粗い歯磨剤は避ける※酸性飲食物でない場合は食後すぐの歯磨きが推奨される(諸説あり)

う蝕と酸蝕では異なる唾液の役割
唾液の作用の違い語蝕はプラークコントロールが悪い環境において,糖が存在し唾液の力も落ちてくると罹患します。ところが酸蝕は,プラークコントロールがよくても生じるため注意が必要です.つまりプラークコントロール以外の注意も必要です.う蝕から歯を守る唾液の作用のうち pH 緩衝作用が大きな役割を果たしています.一方,酸蝕症では唾液の pH 緩衝能が低下した人に多いという報告がある一方,内因性酸蝕症のようにもともとpH 緩衝作用が期待できない食間に進行することもあり、それよりも自浄・洗浄作用やペリクルによる被覆作用が大きな役割となります.その際,脱灰の違いにも着目する必要があります。う蝕は表層下脱灰であり再石灰化が期待できるのでフッ化物塗布などが効果的ですが,酸蝕では強い酸によりエナメル質表層からダイレクトに脱灰(実質欠損)が進んでいるため,酸蝕された後のフッ化物塗布では再石灰化による修復効果は少なくなります。そのため酸蝕症の進行を緩め予防するには,脱灰される前にエナメル質表面を守る“ペリクル”の存在が重要になります。


ペリクルの獲得
ペリクルの獲得には唾液由来のタンパク質が必要で,酸蝕によりペリクルがないむき出しになったエナメル質を保護するためには、唾液で一層カバーすることが必要です.
メインテナンス時にもPMTCによりエナメル質表面のペリクルが剥がされます。唾液が少ない方には牛乳由来成分の CPP-ACP 配合ペースト(MI ペースト/ジーシー)などでコーティングしてもらうと良いでしょう。

デンタルハイジーン参照 大石