
1.MIHってどんな疾患?
MIHは「1本以上の第一大臼歯と切歯に限局して発症するエナメル質形成不全」で重症な場合は象牙質に及ぶこともあります。
したがって、第一大臼歯あるいは切歯にエナメル質形成不全を発見したら、 ほかの 切歯と第一大臼歯をくわしく調べる 必要があります。
発症した歯に認められる症状は変色や実質欠損が主ですが、著しい知覚通敏を示すこともあります。1本の歯に占める罹患領域はまちまちです。
通常、複数歯に発症するエナメル質形成不全は対側同名歯に現れる症状が似ていることが多いのですが、 MIHでは対側同名歯と比較してもまったく異なることが多く、確患部位も重症度も左右で非対称です。
また、萌出直後は実質欠損のない変色歯であったものが後に歯冠崩壊を起こすこともあります。
2.MIHの原因は?
MIHは乳幼児期に起こったさまざまな要因との関連が疑われてきました。
おもなものとしては 喘息や肺炎、呼吸器感染、 中耳炎、扁桃腺炎、水痘、乳幼児期のアモキシシリンの投与、 母乳中のダイオキシン、妊娠中の喫煙などがあります。
どれも因果関係が明確になったものはなく、最近では
血清または血漿中の25-ヒドロキシビタミンD濃度の低下も原因として疑われています。
3.エナメル質形成不全と齲蝕を見タけるポイントは?
MIHという疾患名が登場したのは比較的最近で2001年のことです。
これは先進国で小児の齲蝕催患率が激減したため、齲蝕と間違えられていたエナメル質形成不全が識別しやすくなり、MIHの存在が明らかになったものと考えられます。
元来齲蝕と見間違いやすいエナメル質形成不全ですが、
歯冠に以下のような所見が認められたら疑ってみる必要があります。
① 色調の異常がある
② 粗造な部分がある
③ 歯質が欠損している
④ 齲蝕検知液で濃染されない
⑤ 通常、齲触羅患しにくい部位に変色、実質欠損部位が存在する。
⑥ 第一大臼歯だけに大きな修復物がある。
① 色調の異常がある
白色から褐色の変化が認められます。変色部の位置に一貫性はなく大きさも粒大のものから歯冠全体に至るものまでさまざまです。
② 粗造な部分がある
歯の表面の一部あるいは全部が光沢を失い、滑らかではありません。場合によっては、外来性の色素沈着を起こすことがあります。
③歯質が欠損している
実質欠損の位置と大きさに一貫性はありません。一般的に歯の萌出時にはすでに実質欠損が認められることが多いのですが、なかには萌出時に変色歯であったものが一定期間経過の後に変色部が崩落して実質欠損に移行することもあります。
④ 講蝕検知液で濃染されない
齲蝕とは異なり、エナメル質形成不全の実質欠損は調蝕検知液に濃染されません
ただし、実質欠損部に形成されたプラークが濃染されることがあるため、染色を行う前に同部を十分に清掃する必要があります。
また、すでに齲触に罹患しているエナメル質形成不全も濃染されるので注意が必要です。
⑤通常、齲蝕羅患しにくい部位に変色、実質欠損部位が存在する
齲蝕に羅患しやすい部位 (臼歯小窩裂溝など) や歯面(隣接面、切歯唇側歯頸部など)以外の部位に認められる変色や実質欠損は、エナメル形成不全であることが多いと考えられます。切歯の唇面中央や切端、 第一大臼歯の頬舌側平滑面や咬頭に及ぶ変色、実質欠損が認められる場合には、 エナメル質形成不全 を疑うべきです。
⑥第一大臼歯だけに大きな修復物がある
他の歯は齲触や修復物が少ない、口腔衛生状態が良好な患者さんの第一大臼歯に咬頭を含んだ大きな修復が施されていることがあります。 このような齲触活動性が低いと考えられる患者さんにみつかる大きな歯冠修復処置の原因は、 エナメル質形成不全であったと考えられます。
4.実質欠損のあるエナメル質形成不全歯の歯冠修復はどんな目的で行うの?
歯の知覚過敏、実質欠損や審美障害など患者さんが訴える症状に対応することが大切ですが、対応すべき歯が幼若永久歯であるがゆえに最終的な歯冠修復処置は行えないことが多くあります。
このような幼若永久歯の特徴を考えると、実質欠損が咬頭を含んだ広範囲に及んでいるために全部修復処置が必要とな る場合は通常行う歯冠補綴処置が幼若永久歯に行えない事が分かります。
したがって、 エナメル質形成不全に罹患した幼若永久歯には将来の成長完了後に補綴処置を行うまでつなぎにあたる暫間治療を行う必要があります。
幼若永久歯の特徴
① 歯髄腔が大きく髄角が突出している
成熟永久歯と同じ量の切削ができない
② 咬耗がほとんどない
補綴物の形態を決める事ができない
③ 成長とともに上下の歯の対合関係が変化する
補綴物の形態と咬合関係を決める事ができない
④ 臨床的歯顕線が変化する
補綴物の辺縁の位置を決めることができない
5. 患者さんおよび養育者への説明のポイントは?
患者さんと養育者に十分に理解しておいていただく必要のある事項を以外に示します。
①咬耗やつねに破折の危険にさらされている
歯の変色部は破折や咳耗がいつ起こってもおかしくありません。
② 齲蝕に確患しやすい
罹患部位は歯質の石灰化が不十分です。清掃が困難な場合も多く、容易に齲蝕が発生します。
③ 齲蝕の進行が速い
歯質の石灰化が不十分なために齲蝕の進行が速く、容易に歯髄に運します
④長期の通院が必要である
歯列咬合の完成までは成長に応じた暫間修復と対症療法を行い補綴治療は成長か完了した後に行うため長期に渡る定期的な通院が必要になります。
⑤家庭でのケアがもっとも重要である
治療の成功は家庭でのホームケアにかかっています。
⑥定期検診を怠ってはならない
成長に沿った指導と暫間治療を行うために、また成人までに起こるさまざま問題に早期に対応するためにも定期検診が必要です。
私の患者様にもまれにみられる症状です。写真を掲載します。
気になることがありましたら是非検診にお越しください。




歯科衛生士 飯田
デンタルハイジーン参照