こんにちは。
歯科衛生士の萩生田です。
患者さんが行動変容を起こすモチベーションについてです!
今回は、参考書にのっていたケースについてお伝えします。

初診時の主訴解決後に中断し、5年8ヵ月後の再初診時に全顎的に歯周炎が進行してしまっていたケースの紹介

再初診後、SRP を終えて再SRPをスタートするタイミングから見てみましょう。
再初診後からは、通院が継続的にあるものの、当初より知覚過敏症状があり器具操作に苦慮したことと、PCR が減少しないことが課題でしたが、生活環境の変化でモチベーションが上がり現在ではPCR も減少し安定傾向にあります。
患者さんのモチベーション変化は私たちの働きかけとは異なるタイミングで訪れることもあると学んだ症例です。

【初診】

2010年4月 28歳 女性

・主訴

右上の歯ぐきが2日前から腫れてきた。 肩から頭まで痛い。

・職業

専業主婦

・全身疾患

服薬なし

・喫煙経験

なし

・家族構成

夫、子2人
患者さんは28歳女性で、2010年4月に右上の歯肉の腫れ、肩から頭にかけてある痛みを訴え来院されました。
主訴である 右上5番目の歯は応急処置として投薬治療、その後、根管治療で複数回通院されました。
当時、幼いお子さん連れでの来院で、業務記録には、「お子さんが泣いてしまい治療時間短縮や歯周組織検査のタイミングが難しかった」
との記載がありました。
主訴部位の治療を優先に進め、根管治療後、フルメタルクラウンを装着してから歯周治療を行う予定でしたが、装着後に来院が途絶えてしまいました。
当時の診療システムは、現在のような予防管理型診療に移行する直前のタイミングで、口腔内写真やデンタルX線写真撮影、6点法による歯周組織検査の実施が徹底されていなかったそうです。
主訴部位の治療だけでなく全顎に目を向けてもらうために必要な検査と説明が行えなかったことと、幼いお子さんの育児に追われる生活環境が来院の中断を招いたのではないかと考えられます。
来院中断前に一度だけスケーリングを行った際の歯科衛生士カルテには「育児が大変であること」「妊娠中に歯肉が腫れてバナナを食べるだけで出血していたこと」が記載されています。
当時、患者さんは28歳ですから妊娠性歯肉炎を考慮しても、歯周病のハイリスクであると推測されます。
しかし、それに気づき適切な指導が行われなかったのは、担当歯科衛生士の問題だけでなく診療システムも大きく影響していると思われます。

【再初診】

来院が中断してから5年8ヵ月後の2017年4月に、初診時と同じ右上5番目の違和感を主訴に再来院されました。
このとき患者さんは35歳で、2人のお子さんの母親として忙しい日々を過ごされていました。
このころには、予防管理型診療として検査や説明を徹底する診療システムを実践しており、検査結果から全顎的に4mm 以上のポケットと高い BOP、
デンタルX線写真では多量の歯肉縁下歯石の沈着がみられ、全顎的に進行した歯周病に罹患していることがわかりました。
右上5番目の腫れと違和感で来院されましたが、患者さんの希望もあり経過観察となったため、検査結果を説明し同意を得たうえで歯周治療を開始しました。
TBI の後,、前任の担当歯科衛生士によりSRP が行われていますが、「大臼歯部には知覚過敏症状があるため超音波スケーラーを思ったように使用できない」との記載がありました。
全顎のSRP が終了し再評価を迎えましたが残念ながらあまり改善しておらず、再評価後の再 SRP から私が担当することになりました。
セルフケアについては、「血が出なくなった」と変化を感じながらも 「歯間ブラシをサボってしまう」 「歯磨きができないこともある」など家事・育児で忙しいとのことでブラッシング習慣が定着しませんでした。
再 SRP 時は毎回 舌口蓋側や歯間部に厚めのプラークが付着していましたが、あえて指導せず歯ブラシと歯間ブラシでPTC を行い、ご自身のブラッシングて短期目標を立て、1つずつクリアしていくことで達成感を得てもらう工夫をしていきました。
来院のたびに毎回プラーク付着を指摘したり何度も同じようなブラッシング指導をするなど、結果を急いでしまうと信頼関係を損なう可能性もあります。
信頼関係を損ない来院が途絶えることよりも、理想の状態にならなくてもそれを受け入れて支援を続けることが大切だと思っています。

突然の変化

再 SRP を終了し、1年後の再評価では4mm以上のポケットの改善は多少みられましたが、残念ながらPCR と BOP は期待どおりには減少しませんでした。
患者さんはこれ以上の治療を望まれなかったこともあり、このまま2カ月に1回のSPTへ移行することになりました。
プラークコントロール向上を目標としてSPT へ移行しても、ベッタリとプラークが付着しているときもあれば落とせているときもある、という状況が続きます。
引きつづき、できることとできないことを整理しできることを強化すること、短期目標の設定と評価を繰り返していきました。
 「もっと頑張ってほしい!」と思いながらも押しつけにならない関係性を続けていく、我慢の時期でした。
そんななか、2019年3月のSPT時、染色してのPCR 測定では 62.9%でしたが、これまでとは違い、明らかに厚めのプラークが減少してました。
目先のプラークだけを評価基準とし、毎回プラークコントロール指導をするのではなく、よいときもそうでないときも患者さんを受け入れ寄り添う気持ちと、
結果を急がずに待つこともときには必要だと思います。
何があっても受け入れてくれる、という信頼関係を維持し、定期的な来院でリスク部位の変化を確認しておけば、劇的な改善がすぐに起こらなくても急速な悪化や崩壊は避けられるはずです。
患者さんの思いが変わらなければ行動変容は起こらないことをこの症例が教えてくれました。
患者さんの心、環境にターニングポイントが訪れるときを待ち、そのときがきたらしっかりとサポートできるよう、いつでも準備しておきたいものです.